板橋病院
手術について - ICL
【ICL (アイシーエル)有水晶体後房レンズとは】
担当;林 孝彦・原 雄將
眼内コンタクトレンズ「ICL」視力矯正とは、眼の中にレンズを入れて近視や乱視を矯正し、裸眼視力を回復させる視力矯正手術です。 1997年に欧州で導入されて以来、世界で累計100万眼以上に使用されています。国内では2003年から治験が始まり、2010年に医療機器として承認されています。 レンズのインプラントには、インジェクターと呼ばれる挿入器を使用します。 インジェクターがレンズを小さく折りたたんだ状態で眼内に射出するので、インプラントのための切開創は約3㎜と小さく、手術時間も20分~30分の低侵襲手術となっています。
特徴は、適応範囲が広くレーシックでは適応外となる強度近視の方や角膜が薄い方にも適応が可能なこと、視力矯正の精度が高くハードコンタクトレンズと比べても見え方に遜色がなく手術後の満足度が高いこと等が挙げられます。レーシックは角膜を削ることによって近視を矯正するので、手術後に元の状態に戻すことは不可能です。 近視の再発やドライアイとなる可能性も懸念されています。それに対してICLは、インプラントしたレンズを取り出して元の状態に戻すことが可能であり、術後の見え方に大きな不安を持つ方にとっても安心して頂ける可逆的な手術です。レンズは、「コラマー(Collamer)」という、コラーゲンを含むHEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)の共重合体で、親水性のとても軟らかい素材でできています。コラマーは生体適合性が高く、眼の中にいれても異物として認識されにくい、大変優れた素材です。特別なメンテナンスをする必要もなく、眼の中で長期間にわたって透明な状態を維持し、半永久的に使用可能です。
ICL(アイシーエル)自体は、20年以上の歴史があり、現在世界70か国以上で承認され世界的スタンダードとなっています。
国内でも国内治験の結果からICLの有効性と安全性が認められ、高度管理医療機器「有水晶体後房レンズ」として2010年には近視矯正用レンズが、2011年には乱視矯正も行えるトーリックレンズが厚生労働省から承認を受けています。ICLはレーシック等と比較して、矯正範囲の広さや精度はもちろん、安全性も非常に高い有用な屈折矯正手術であると考えられています。近年、需要が増えている屈折矯正手術で当院でも試行しています。
Hole ICL (穴あきICL) について
ICLは右図のように長方形のレンズで、素材はコラマーという重合体でできおり柔らかく目の中で割れたりするものではありません。
最初のレンズ開発から改良が重ねられ現在当院で使用しているレンズは最新モデルであるICL KS-AP(EVO,EVO+)になります。
EVO,EVO+はレンズ中央に0.36mmの微小な穴が作成されており、この穴によって従来必要であった虹彩切除が不要となり合併症(眼圧の上昇、白内障)の軽減が期待されています。
中央の穴は通常、見え方には影響しません。
※一部の遠視・混合用のICLは孔なしの従来ICL(V4)になります。
ICLの固定位置
ICLには上図のようにレンズの4つの隅にフットプレートがあり、この部分を虹彩の根本(毛様溝)へ固定します。眼内には水晶体の前へブリッジした形で固定されます。ICLは虹彩の裏側(後房)で固定されるため外見的にはわかりません。また、後房固定は、レンズの安定性が良好で、角膜内皮への影響がほとんどありません。
ICLの手術方法
手術時間は片眼15分~20分程度です。
- ① 点眼にて麻酔をします。
※目薬の麻酔で手術中の目の痛みは感じなくなりますが、圧迫感は感じると思います。
注意:手術中は顔を動かしたり、目を動かすと大変危険です。心配せずリラックスして顕微鏡の光をしっかり見ていてください。気分が悪い時や咳が出そうな時は、動かず声でお知らせください。 - ② 角膜に約1mmと3mmの切開を作成し、目のスペースを保つための薬をいれます。
- ③ インジェクター(注射器のようなもの)にICLを折りたたんでいれ、3mmの切開創より眼内へレンズを挿入します。
※レンズを挿入する際に「目が耳側から鼻側押される」感じがします。その際、押される力を押し返す感じで同じ所を見続けてください。 - ④ 4つの隅のフットプレートを虹彩の裏の毛様溝へ固定します。
- ⑤ 目の中の薬を洗い流し、瞳を縮める薬をいれてレンズが虹彩にひっかかっていないか確認します。※瞳を縮める薬を入れるときは少し目がしみる感じがします。
※極稀ではありますが、ICLレンズに不具合があると医師が判断した場合には、手術当日レンズを入れることができず、再度手術日程を調整させていただく場合があります。
手術後よくみられる気になる症状
多くの症状は時間の経過とともに消失するか、気にならなくなるケースが大半です。
① 焦点のあいにくさ:
翌日から1週間ほどで視力改善は体感できますが、同時に全体的にかすみ・ぼやけ・まぶしさ・ピントが合わないと感じることがあります。特に、強度の近視および乱視がある場合、そのような症状が感じる傾向があります。通常はしばらくすると改善しますので心配ありません。
② 異物感・しみる感じ・充血:
手術と術後点眼の影響で、異物感、点眼がしみる、充血などの症状を感じますが、術後1~2週間くらいで徐々に改善します。
③ 結膜下出血:
コンタクトレンズを長期使用している方は角膜周辺部に血管侵入している場合があります。そのような方は手術の際に、角膜を切開しただけで出血して白目が赤くなること(結膜下出血)があります。赤くなっても目に異常はありません。赤みは術後1~2週間で自然に消失します。手術の結果や目への影響も心配ありません。
④ 角膜内皮細胞の減少:
内眼手術は角膜内皮減少のリスクがありますが、極端な角膜内皮細胞の減少はありません。
手術中に角膜表面の上皮が一部欠損してしまうことがあります。ほとんどの場合、数日で欠損したところは治りますが、治りが遅かったり、治り方が正常でない場合、視力の回復にやや時間がかかることがあります。特に糖尿病がある方は注意が必要です。
⑤ 夜間のハロー・グレア:
手術後、夜間や暗い場所で光の周囲がぼんやり広がって見えるハローや、光がにじんで見えるグレアが見えることがあります。
通常は術後1~3か月程度経過すると、不快な症状が改善する傾向にありますが、稀に続くこともあります。
まれに起こる治療が必要な合併症
いずれも稀ではありますが起こり得る合併症と、その解決方法について説明します。このような合併症の早期発見のためにも、術後の経過をみることが大切です。
① 一時的な眼圧上昇/高眼圧:
稀に一時的に眼圧が上昇する可能性があります。眼圧が高い場合、頭痛・吐き気が生じることがあります。その程度によって眼圧下降剤の点眼や内服を一時的に追加します。孔のない従来型のICLは0.8%の確率で瞳孔ブロックが原因となる高眼圧が生じるため、事前に虹彩周辺にレーザーで虹彩切開術を行う必要がありましたが、当院が導入しているホール付きICLは瞳孔ブロックを防ぐ機能があります。
② ICLサイズ不適合:
計測と3次元光干渉断層計を駆使して患者様一人ひとりに合わせたレンズサイズを選択しますが、稀にサイズの不適合が生じICL入れ替え手術を勧める場合があります。
③ 過矯正・低矯正:
ICLの度数は精密な術前検査とシミュレーションにて慎重に決定します。しかし、個人によっても差がありますが、100%の精度で屈折矯正手術を行うことは現実的に不可能です。
ほとんどの場合は許容範囲ですが、裸眼視力に影響する過矯正あるいは低矯正となった場合には屈折が安定した時点(術後約3ヶ月以降)でICL入れ替え手術を行うことも可能です。
④ 乱視軸ずれ:
乱視矯正効果のあるICLを使用する場合、レンズの固定位置が決まっています。
術後に軸が回転した場合は、乱視矯正効果が減弱し裸眼視力が低下することがあります。
裸眼視力に影響する場合には軸修正が必要となり、軸ずれを繰り返す場合にはICL入れ替え手術が必要となるケースもあります。
②③④のICL入れ替え手術を希望する場合・・・
術後1年以内であれば、メーカー保証によりICL入れ替え手術をすることが可能です。
(その際、レンズ代を新たに負担しなくてもよいですが、 手術代はかかります)
⑤ 併発白内障:
従来型のICLで最も危惧される合併症に併発白内障があります。ほとんどの場合、術後1~2年くらいで急激に進行し、視力の低下をきたします。
(ただし、一般的に強度近視の方では若く白内障がおこる傾向にあります。そのため術後長期にて白内障が出た場合は、ICLによるものではない可能性があります。)
当院では、より併発白内障のリスクが軽減される最新モデルのレンズを導入しています。
水晶体の混濁(白内障)が進行して視力障害が生じた場合は、ICLを摘出し通常の白内障手術を行うことで視力は改善します。
若年者の場合、調節力が失われるため眼鏡が必要になる可能性があります。
⑥ 感染症:
ICL手術ではレンズを挿入するため角膜に3㎜程度創口を作ります。術後しばらくの間はその傷口が弱いため目を強くぶつけたり、こすったりすると傷口が開き、細菌が侵入して、感染症を起こす可能性があります。
また予期せず感染症がおこることもあるので、 細菌が眼に人らないように十分注意して、処方されたお薬を必ず医師の指示通りに使用してください。(発症率0.0016%)
<その他>
■網膜剥離、網膜裂孔、黄斑部疾患:
近視が強いと自然に網膜剥離やその他の網膜疾患になる確率が高くなることが統計的に知られています。これは手術による危険性とは別のものです。
■緑内障:
近視が強いと緑内障の発症率は高率になります。術前に緑内障がなくとも長期的に緑内障となる可能性はありますが、ICL挿入後も治療は可能です。
これまでに報告されていない合併症が発生する可能性が理論的に存在します。
重症の場合は部分的あるいは全失明、または治療の延長や追加の外科手術が必要になる可能性は非常に少ないですが否定はできません。
眼内コンタクトレンズ(ICL)費用のご案内
※眼内コンタクトレンズ挿入術、術後診察は自費診療のため健康保険が適用されません。
実施項目 | 費用(税別) | 追加施術 | ||
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検査費用(保険診療) | 適応検査 | (3割)約6,000円 | 〈レンズ入れ替え〉 1年以内: レンズ代不要(手術代のみ) 1年以降: 初回手術と同額 |
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術前検査 | (3割)約6,000円 | |||
手術(自費診療) | ホールICL乱視なし | 両眼 | 600,000円 | |
ホールICL乱視あり | 700,000円 | |||
ホールICL乱視なし | 片眼 | 300,000円 | ||
ホールICL乱視あり | 350,000円 |
※ご予約金お支払い後の返金は致しかねます。予めご了承ください。
※手術当日に手術費用の残額をお支払いくださいますようお願い致します。
※検査によって適応外と診断された場合、手術しない場合においても実施された検査や診察料金は発生致します。
※検査費用は概算となります。ご本人様の状態により検査内容が変更となる場合がございます。予めご了承ください。
※ご自身で加入している民間保険の給付については、「有水晶体眼内レンズ挿入術」が対象かどうか、加入保険会社へお問い合わせくだい。
【術後の注意点】
手術後の日常生活について
手術が無事終了しても、しばらくは目に小さな傷が残っています。術後はこの傷から感染症がおこらないようにすることが最も重要です。
手術した目が順調に回復していくよう下記のことを守ってください。
- * 洗顔・洗髪・メイクは、術後6日間控えてください。
- * 術後1週間は、保護用メガネを1日中(寝る時、入浴時を含め)かけてお過ごしください。
- * 術後3日間は創口が弱いため、目を強くこすったり、ぶつけないよう注意してください。
- * 手術当日は見え方が不安定なので階段など特に気をつけてください。
- * 手術した目を強くこすらないでください。
- * 日常生活の開始時期の目安は、別紙「ICL術後の過ごし方」をご参照ください。ただし術後経過において個人差がありますので、 担当医師に確認のうえ開始するようにしてください。
その他
- * 手術後どのくらい見えるかは個人差があります。 (裸眼視力は特にその人の目のポテンシャルによるため、同じように屈折値が完全に矯正されたとしても2.0まででる人もいれば1.0 くらいが限界の人もいます。) 他人と視力の数値だけを比較することはあまり意味のないことなので過度な心配はしないようにしてください。